「HPが減ったら」とか「後ろから襲われたら」といった単純な状況なら良いのですが、PT論では各メンバーの立ち位置や能力、役割り、相手MOBの数やタゲの分散状況、新たに加わってきたMOBの方向や位置など、様々な状況を前提にして説明しないと、キチンとした説明は難しいものです。
まぁそんなことを日頃考えながらやっていたPT論ですが、やっぱりキチンと状況などを伝えた上で説明してみたいなぁと思い書いてみたのですが、やっぱり説明が長い長いw
彼らがこのダンジョンへ降り立ったのはもう何度目のことになるだろうか?
ここはアフラーム、樹上世界でも屈指の凶悪魔物が数多く巣食うダンジョンである。
アフラームの内部へと誘う、ぽっかりと開いた漆黒の口のような入り口の前に立ち、シレイトウは「さぁ行くぞ」と言葉を発した。
その言葉を合図に、ガチャガチャと甲冑の音をさせながらタッテーが真っ暗な入り口へ体を滑り込ませ、シレイトウ、キヨウヤーンも後に続いた。
「どうしたの?」傍らにいたシンジーンにヒーラーのイヤスデーが声をかけた。
シンジーンは不安そうにアフラームの入り口を覗き込みつつ「私なんかが参加して良かったんでしょうか?」と呟いた。
イヤスデーはクスリと笑った。
「大丈夫よ、タッテーがMOBの攻撃は受け止めてくれるから貴方に危険はないわ。
貴方が攻撃に加わってくれればその分早く倒せるんだし、それはタッテーやみんなを助けることになるのよ」
*1と優しく声をかけ、
そっと盾魔法をシンジーンにかけた。
*2
「さぁ行きましょう」
二人がアフラーム内部へと姿を消した後、そこは再び不気味なほどの静けさだけが残った。
「シンジーン!
タッテーと同じ場所に立つな!私とタッテーの間に立って攻撃しろ!」
*3
シレイトウのコーチング(指示)が飛んだ。
「タッテー、その位置だと炎の壁が上手く撃てない。
そこの十字路まで誘導してくれ」
*4
キヨウヤーンの言葉を背後に受け、タッテーは自身のすぐ背後にある十字路まで後退を開始した。
慌ててシンジーンはタッテーに追いすがるモンスター、ホブゴブキングを追いかけて追撃を加えた。
「待て!」背後からシレイトウの声が届く。「タッテーが
位置を決めるまで手を出さずに待つんだ」
*5
「タッテーが後退している間は彼は攻撃が出来ない。お前さんだけが殴っていると、ゴブの気が変わってお前さんに噛み付くかもしれんぞ」キヨウヤーンはシンジーンにそう話すと、ニヤリと笑った。
シンジーンはぞっとした。ホブゴブキングの腕は彼の胴体ほどの太さがあり、彼の装備している革で出来た防具などいとも簡単に打ち破られてしまうだろう。
自分に声をかけてくれたキヨウヤーンに目を向けると、彼の体の周りに魔方陣が描かれていた。なるほどすぐに再開出来るよう事前に準備をしているのだなと思った。しかし……。
タッテーがホブゴブキングを誘導しながら後退している間も、タッテーはホブゴブキングからの攻撃に晒されている。当然イヤスデーだけはヒールを止めるわけには行かず、その度にヒールをかけることになっていた。
「あのままじゃ、イヤスデーさんにキングが向いてしまうんじゃ……」と呟いた時、シンジーンはシレイトウの立ち位置の意味に気がついた。
シレイトウはヒールを続けるイヤスデーとホブゴブキングの間に割り込む形で立ち、剣を構えていた。
「シレイトウさん、タゲがイヤスデーさんに移ってもすぐに対処出来るようにしているんですね」と声をかけたシンジーンにチラリと目を向けると、シレイトウは「キヨウヤーンの炎の壁で一気に勝負を決めるぞ!どうすれば良いか分かるな?」と答えた。
「はい!」シンジーンは元気に返事をした。
十字路中央まで誘導したタッテーは「おらっ!」気を発し、大きな両手斧を力任せに振り下ろした。
それを合図にシレイトウは一直線にホブゴブキングに突っ込み、キヨウヤーンはその右手を振り上げた。
ゴゥという凄まじい轟音が辺りに響き、強烈な炎でホブゴブキングが焼かれていく。
凄まじい威力だ。あれでは今までタッテーが溜め込んだホブゴブキングの注意も
一瞬にしてキヨウヤーンへ向いてしまいそうだ*6。
シンジーンは不器用にホブゴブキングとキヨウヤーンの間に自分の体を割り込ませるように移動し、攻撃を再開した。
シンジーンが体を割り込ませようとした時キヨウヤーンは足を踏まれたが、彼は何も言わなかった。
その様を横目に見ていたイヤスデーはクスリと笑った。
「イヤスデー、ヒールをかけてくれ、痛みで詠唱に集中出来なくては困る」
イヤスデーはそっとキヨウヤーンの右足にヒールをかけた。
ホブゴブキングとの戦いを終え、アフラームの一角にキャンプを張り、一行は休息を取っていた。
「あれ?キヨウヤーンさん攻撃を受けてしまいました?そうならないよう頑張ってみたつもりだったんですが……」心配そうにシンジーンが覗き込んだ。
「いや、子ネズミに噛まれただけだ。ドタバタした子ネズミにな……」
「ところで」話題を変えるようにイヤスデーが口を挟んだ。
「今日はこの後、リッチ狩りということでしょうか?」
「そうだな、タッテーが魔術抵抗スキルを上げたいと言っているし、
いかに防御力が高くとも魔法攻撃には関係ない。魔法への抵抗力も上げておかなくては今後苦しくなってくるだろうからな」
*7とシレイトウが答えた。タッテーは何も言わず、自分の斧の刃こぼれを確認していた。
「しかしリッチは危険ではないか?きゃつらはいつも群れているし、万が一同時に何体も相手することになると、まだ魔術抵抗が上がりきっていない今では、少々荷が重いのではないかな?」キヨウヤーンが意見した。
シレイトウは黙って頷いた。アフラームに出かけた冒険者たちの多くがそこで命を落としていった。リッチはそうした冒険者の内の魔法使いが亡霊となったものだと言われている。何体もが群れをなして生息しており、危険な相手なのである。
「大丈夫だ」
黙って武器の手入れをしていたタッテーが不意に声を発した。
「こちらも戦力は強化した」
一同の視線が自然とシンジーンに集まった。
「ふ~む」キヨウヤーンが腕を組んだ。
「タッテーがタゲを集めている限り、問題はあるまい」シレイトウが言った。
「戦闘開始前に範囲鎧をお願いしますね」イヤスデーがキヨウヤーンに微笑みながら言った。
キヨウヤーンはチラリとシンジーンに目を向け「子ネズミの戦力強化か」と右足をさすった。
「え?え?あ、その足……!?」シンジーンは言葉を失った。
一行はアフラームを更に深く、地下2階へと進んだ。そこはリッチの棲家となっている広間がいくつもある場所である。タッテーを先頭にしてリッチの巣食う広間へと歩を進めた。
先の2体のリッチが巣食う部屋では、なるほどリッチの魔法「漆黒の槍」の威力は大きかったものの、危なげなく冷静に1体ずつ仕留めることが出来た。
「この部屋もリッチだったな……」タッテーが広間の扉の前で足を止めた。
「とりあえずリッチの配置を確かめましょう」
リッチは決まって2~4体が広間に陣取り、冒険者たちを待ち構えている。リッチと戦うためには、まず広間の外から中を覗き、リッチの立っている位置や向きを確認し、全部を一度に相手しないよう配慮しなければならない。
「
おい、扉の前に立つな」
*8キヨウヤーンがシンジーンに注意した。
「開けるぞ」シレイトウが声をかけ、そっと広間の扉を開いた。
「四方向それぞれが外向きに立ってますね」イヤスデーが確認した。
「よし、広間中央でやるぞ、タッテーは広間中央まで突入して陣取れ。他の者はあまり陣形を広げて他のリッチを引っ掛けることがないように」シレイトウが的確に指示していく。
「シンジーン、万が一襲われても逃げ回るな、他のリッチを引っ掛けるからな。死んでしまったら蘇生するから、パニックだけは起こすなよ」シレイトウの言葉に黙ってシンジーンは頷いた。
「大丈夫、任せて!」イヤスデーが親指を立てて見せた。
「キヨウヤーンはリッチの位置に注意して範囲魔法を使ってくれ」
「タッテー、魔法防御がまだ低いから、イヤスデーに見えやすい位置に立つよう注意しろ」
一通りの打ち合わせがシレイトウを中心に行われた。
「ワシの範囲鎧で戦闘開始じゃ」キヨウヤーンはそう告げると詠唱に入り、各自武器を構え戦闘体勢に入った。
ドーンと鈍い音が響き、大きな魔方陣がPTメンバーを取り巻くように描かれた。
「行く!」一言発し、タッテーが手前のリッチの注意を引きつつ、広間の中央へと走りこむ。他のリッチが外側を向いているため、広間中央に陣取って戦う限り他のリッチが加わってくる心配はない。
手前のリッチがタッテーに釣られ広間中央へ向きを変えるのを確認して、残ったメンバーも一斉に広間中央へと踊り出た。
一直線に走り自分の位置を確保したイヤスデーは、
準備が整った合図も兼ねてタッテーにヒールを撃つ。
*9
その合図を見て、タッテーはリッチとイヤスデーの間に自分が立つ形になるよう、
微妙な位置修正をする。
*10
キヨウヤーンが風属性の初級攻撃魔法「雷」を放つ。
リッチのタッテーに対するヘイトが安定していない序盤*11に上位攻撃魔法を撃ち込むような無謀なことはしない。高位魔法使いの鉄則である。
シレイトウはタッテーの正面側、丁度タッテーとリッチを挟み背後に回り込む形に陣取った。ここはイヤスデーから見るとタッテーとリッチの影となり最もヒールを受けにくい危険な位置にあるが、後衛であるキヨウヤーンとイヤスデーを正面に見据える位置となり、PT全体の後方を見渡せる位置でもあった。
シンジーンは少し戸惑った後、とりあえずリッチとキヨウヤーンの間に位置する場所に陣取り攻撃を始めた。
「ワシを守ろうという訳か、小癪なことを……」シンジーンの不慣れな位置取りに目をやりながら、キヨウヤーンが呟いた。
リッチは攻撃の大半を魔法で行ってくる。魔術抵抗の低いタッテーは少なからぬダメージを受ける事になるが元々高いHPがあり、イヤスデーも落ち着いてヒールが出来ているようである。
時折物理攻撃を加えHPを削っておいてから魔法を加えてくる辺りは、リッチの攻撃も執拗であるが、事前にかけておいたキヨウヤーンの範囲鎧の効果が大きく意味を成した。
「そろそろ良いか」リッチの高いHPを一気に削ってしまおうと、キヨウヤーンは炎の壁の詠唱を始めた。そろそろタッテーへのヘイトが貯まり簡単にはこちらへ向くことはないだろう。
魔方陣が描かれ、スルスルとリッチを射程距離に捉えようと歩み寄り、「炎の壁行くぞ、シンジーン火傷するなよ!」と手を振り上げようとした。
「Add!」突然シレイトウが叫んだ!
*12
広間にいた他のリッチ三体が突如振り返り*13、PTに走り群がってこようとしていた。
「マズい!」慌てて止めたキヨウヤーンの
右手から炎の壁が発動されてしまった。
*14
- 続く -
*1 貴方が攻撃に加わってくれればその分早く倒せるんだし
新人さんや生産系キャラなど、攻撃力や防御力が弱いキャラであっても、戦闘に参加すれば、その分確実にPTの総合攻撃力が高くなります。
PTへの参加は「強くなってから」ではなく、「上手になるため」に積極的に参加しましょう。
*2 そっと盾魔法をシンジーンにかけた
防御力に不安のあるキャラに対して盾魔法をかけておくことは大切なこと。
そのキャラを守る意味の他にも、ヒーラーに心のゆとりを与える効果があります。
*3 タッテーと同じ場所に立つな!
前衛が重なって立つと、ヒーラーはヒール先が指定しにくくなり、HP残量も見えにくくなります。
直接キャラをクリックしないヒーラーなら問題ありませんが、全員がそうだと限らないため、やはり重なって立つことは危険です。
*4 そこの十字路まで誘導してくれ
タンクはタゲを集めて耐えることだけが仕事ではありません。
タンクの立つ場所がPTの戦闘場所であり、戦闘位置の決定権を持っています。
他のメンバーが不自由しないよう、必要に応じて誘導します。
*5 位置を決めるまで手を出さずに待つんだ
MOBが誰をタゲするか、これをヘイト(憎しみ度)と言います。
一般には攻撃を受けると、そのキャラに対するヘイトが貯まっていきます。
誘導している最中など、タンクが攻撃をしていない間に攻撃してしまうと、ヘイト量を追い越してしまい、襲われる可能性があります。
*6 一瞬にしてキヨウヤーンへ向いてしまいそうだ
大きなダメージで攻撃した方が大きなヘイトが貯まります。
しかしMOBによっては、より魔法に強く反応するもの、同種MOBを攻撃している者に強く反応するもの、自分の近くに立つ者に反応するものなど、特殊なタイプもいます。
*7 いかに防御力が高くとも魔法攻撃には関係ない
防御力やHPが高いタンクも、魔法への対策が弱いことが意外と多い。
いかなる攻撃にも耐えるのがタンクの務め。
魔術抵抗の対攻撃・対付与ともに充分に上げておく必要がある。
*8 おい、扉の前に立つな
アフラームなど広間の扉を開く際、中のMOBが目の前に立っているかもしれません。
開けた瞬間に襲われることもあり、パニックになる原因の一つです。
扉を開ける際は、出来るだけ扉の脇に身を寄せていましょう。

<<イメージ図>>
*9 準備が整った合図も兼ねてタッテーにヒールを撃つ
タンクはヒーラーから見えやすい位置に立つため、ヒーラーが立ち位置を決めるのを待っています。
「準備出来たらヒール入れる」など事前に合図を決めておくと、分かりやすいですね。
*10 微妙な位置修正をする
前衛も後衛も、一度陣取ってしまったら踏ん張ったままではなく、状況に合わせて立ち位置を調整しましょう。
例えばダメージを食らったら、ヒーラーから見えやすい位置に移動するなど。
*11 リッチのタッテーに対するヘイトが安定していない序盤
竜巻や炎の壁など、強力な攻撃魔性をいきなりぶっ放せば、たちまちタゲがハネてしまいます。
ある程度タンクにヘイトが貯まるのをまってからの方が安全です。
*12 「Add!」突然シレイトウが叫んだ
Addとは「新たなMOBが加わった」という意味です。
ダラダラとチャットしているヒマのない戦闘中の緊急時などの場合、このような短縮した形で伝えられることがある。
*13 広間にいた他のリッチ三体が突然振り返り
通常、アフラームの広間にいるリッチは勝手に動きませんので、この部分はフィクションです。
ただ「動かない」と油断することは禁物です。
*14 右手から炎の壁が発動されてしまった
飛び出すな、魔法は急には止まらない。
新たに加わったリッチ3体はヘイトが貯まっておらず、範囲魔法である炎の壁に触れた瞬間にキヨウヤーンに向かってくることになるでしょう。
次回、キヨウヤーンのそしてPTの運命やいかに!?